トイレよりも携帯!?染み付いたカルチャーの改革も必須
LIXILの本社に置かれているピエール瀧さんと山下智久さんの模型
–アフリカでは、一般家庭や学校にトイレがないのは当たり前のことなんですか?
安全で衛生的なトイレという観点だと、かなり少ないですね。トイレ自体はあっても、穴を掘っただけのものだったり。水洗式のトイレが設置されているのは、都市部の家庭やしっかりした造りのビルぐらい。
ただトイレはあっても、水が出るのが週に2回だけ、1日のうち2時間だけという具合で、とても不便なんです。インフラが整っている場所で暮らしているのは、エリートと呼ばれるごく一部の人だけですね。
–自分たちがどれだけ恵まれているのかがわかります。トイレがない家庭では、どうしているのでしょう?
近くの川とか野原で済ませるとか……。スラム街みたいなところだと、家の中でビニール袋に用を足して、その袋を窓から捨てるなんてこともありますね。外で用を足そうとすると、レイプなどの犯罪に遭う危険性があるためです。
洪水などがあると、この写真のように汚物が1箇所に固まって、ひどい臭いの原因になります。
–これは言葉を失う光景ですね……。どうして、アフリカでは衛生環境が改善されないままなんでしょうか?
インフラを整えることは現実的に厳しく、トイレという場所を作ってもキレイな状態で保つことができていません。そうなるとトイレには「臭い・汚い・危険」というネガティブイメージがついてしまい、「それなら別の場所で済ませよう」と考えるんですよね。
トイレがないことがカルチャーになっていて、「どうせ使わなくなるのに、なんでトイレを作らないといけないの?」と感じてしまう。だから携帯は持っているのに、家にはトイレがないなんてことも起こりえます。
–トイレより携帯!? でも、とくに女性にとってトイレ問題は切実だと思うんですが……。
そうですね、女性は生理が始まると、学校に行かなくなる子が増えます。学校にはトイレが設置されていないからです。それが嫌だと思っていても声を発せないのでしょう。そうするとまともに教育を受けられず、就職できない女性が増えてしまいます。トイレの不備による経済損失は深刻な問題です。
–悪循環ですね。病気などによって、命を落とす子どもたちが多いことも胸が痛みます。
川の水を飲み水に使っている家庭もあるので、どうしても下痢性疾患にかかって死亡する子どもが後を絶たないんです。当社のプロジェクトでは間にNGOなどに入っていただき、そもそもトイレを使う概念がない人たちへの教育をサポートしてもらっています。
1回500ミリリットル未満で利用できる簡易トイレ「SATO」
–「みんなにトイレをプロジェクト」で寄付される簡易式トイレ「SATO」は、どんな仕組みなのでしょうか?
図の通り、用を足したあと500ミリリットル未満の水を流すと、その重みで弁が開き、水と排泄物が流れていきます。現地では地面に穴を掘ってSATOを設置し、周りをコンクリートやレンガで囲います。水と排泄物は土の上に流れていき、時間が経つと水分が蒸発し細菌が無害化するというわけなんです。
–確かに、これなら簡単に設置できそうですね! ちなみに日本のトイレは、どのくらいの水を使用するんですか?
当社の節水トイレは、4リットルですね。アフリカの都市部に設置されている水洗トイレだと、10リットルもの水を使います。
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