突然だが、皆さんは路上で固ゆで卵を食べたことがあるだろうか?

いきなり何の質問かと思われるだろうが、実はこれ、ケニアでは一般的な光景だったりする。フォーマルセクターでの雇用が限られているケニアでは、必然的に自分でビジネスを始めて食い扶持を稼がなければならない人が多いため、手軽に始められる路上で軽食を売るインフォーマルビジネスが都市部のあちこちでみられる。

ケニアの路上で最もよく売られている軽食はソーセージ、サモサ(肉や野菜を小麦粉に包み揚げたもの)、チャパティ(小麦粉を油で揚げ焼きしたもの)、そしてゆで卵だ。都市部では朝、夕方、そしてラッシュアワーの時に小腹を満たす路上の軽食が重宝されており、職場や自宅へたどり着くまでの心強い味方であったりする。

ジョセフ・ムルイキさんもそんな路上で軽食を売っている中の一人だ。ジョセフさんは朝の9時前にナイロビのセンター街に来て仕事を始める。

「先ず玉ねぎとトマトを細かく刻んでコショウをふりかけてカチュンバリ(サルサ、ケニアでは肉の付け合わせにすることが多い)を作るよ。その後は荷車を綺麗にして、調理と保温のための炭ストーブを用意して、準備は終わりさ」

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ジョセフさんの軽食売りの風景。端にゆで卵、ガラス台の上にはカチュンバリと調味料がある。

ジョセフさんは元々地方出身で、良い職を求めてナイロビまでやってきた。学歴と重機オペレーターの経験はあったものの、結局定職に就くことは叶わず、やむなく自分でビジネスを始めるしかなかった。なけなしの5000シリングをはたいて始めた路上軽食のビジネスのおかげで、今日までナイロビでの生活を続けることができたという。

ジョセフさんは気前よく、どのようして路上軽食のビジネスが成り立つのかについて教えてくれた。12個入りの生卵4パックを900ケニアシリング(約990円)で買い、それをゆで卵にした後1つ20シリング(約22円)で販売する。また、スーパーで買ったソーセージ一袋を345シリング(約380円)で買い、それをゆでて1つ30シリング(約33円)で販売する。

特別な技能は必要ない誰でもできる商売だが、空腹の時に温かい食い物があるとついつい手が伸びてしまうそうで、狙い目のエリアを見つければ悪くない商売となる。

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ストリートで軽食売りをするジョセフさん。空腹な人を求めてナイロビをあちこち歩き回っている。

ジョセフさんがセンター街のどこで軽食を売っているかを聞いてみたが、そこは秘密なようだ。穴場のエリアを教えて競争が激しくなることを避けるためという理由もあるが、それより問題なのは場所を知られると警官やシティカウンシル(ナイロビ市議会、インフォーマルセクターの人々に賄賂やみかじめ料を要求することが問題となっている)の連中がやってきてゆすりやたかりを繰り返すことだ。

賄賂目的のこうした活動はインフォーマルセクターの人間にとって一般的であると共に、路上での商売は常に今日の売り上げが生きるか死ぬかの危機と隣り合わせのスリリングな一面もある。

誰だって一生懸命働いて稼いだお金が賄賂に消え、ベッドの中で空腹に耐えるなんてゴメンだろう。それでも話を続けていると、線路沿いのエリアが狙い目だと教えてくれた。ジョセフさんのターゲットは列車の利用者で、彼らもインフォーマルセクターの人が多いため、軽食に手が伸びやすいらしい。

夜中にゴミを集めて燃やし、そこらへんのゴミ箱に捨てることでジョセフさんの一日の仕事は終わる。夜中にやらないとシティカウンシルに捕まってしまうのだという。路上の軽食売りは確かにちゃんとした仕事とは言えないかもしれないが、手ごろでフレッシュな軽食をナイロビ住民に提供していることは間違いない。

ジョセフさんの今の願いは、政府がこうした路上売りに関する権利を認め、ライセンスを発行することで安心して商売ができるようになることだという。もし小腹が空いて周りにレストランがなかったら、ストリートを歩いてみてはどうだろうか。きっと路上で売られているシンプルな軽食をあなたは見逃さないだろう。

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長谷川 将士

長谷川 将士

株式会社グラスルーツウォーカーズ代表取締役CEO
二十歳からケニアでフィールドワークを続け、大学院時代に行った調査が共著論文として書籍に掲載されています。専門はアフリカ政治経済学(特に紛争及び市民暴力)。最近は中間層論と経済成長論に関心有り。日本のアフリカ報道と学術研究やフィールドワークから見えるアフリカ像が大きく異なることに疑問を抱き、エビデンスに基づいた現場発信型メディアを立ち上げるべく、ケニアで奮闘しています。弊社ジャーナルサイトは平日、正午に更新していますのでご一読ください。