石の代わりに何を食べる?
ケニアでは42の民族が存在し、多種多様な環境が混在しているため、オドワが簡単に取れない地域もある。そうした地域ではオドワを食べる習慣がないものの、妊婦は代わりに様々なものを食べている。
42歳になったスーザンさんは今ではお孫さんもいるが、妊娠中もオドワは口にしなかったという。
「私の育った農村(ケニア山周辺)では石を食べる習慣はなくてね。そもそも石を見つけるのが難しかったのよ。代わりに砂を食べていて、特に雨の日はこんなに食べたくなるものかと思うほど砂を欲しがってましたね。妊娠していたときは、湿った砂の臭いを嗅ぐとついつい食べたくなっちゃうんだけど、出産してからはそんな欲求もどこかにいってしまったわ」
エミリーさんの育った地域でもオドワは採れなく、一度も食べたことは無いという。
「私は石を食べたことは無いね。ヤム芋とかサツマイモとかクズウコン(アロウルーツ)とか、骨を似たスープとか、栄養のあるものを食べたわ。石を食べるよりこっちの方がよっぽど健康に良いと思うんだけどね。あとは雨で湿った土とか薪(まき)を燃やしてでた灰とかをモシャモシャ食べてたかしら。当時は妊娠中の胸やけに効くと信じてたのよ」
科学と文化のギャップ
何かしらの栄養を摂取しようと石や砂、泥や灰といった一見食べ物とはみなされないものを食べる文化はケニアだけでなく世界中で確認されている。
これまで紹介してきたように一部ではオドワを食べる習慣はないものの、ケニアでは広くオドワが親しまれている。一般的にオドワ、あるいは砂や木炭、灰といったものを食べる習慣は体が鉄分や亜鉛といった栄養を欲しがっているためと説明されることが多い。
しかし、鉄をそのまま食べても鉄分を摂取することが難しいように、石を食べたところで必要な栄養素を効果的に摂取することはできないと考える医師や栄養士は多く、科学的には出産に良いという根拠を見つけることができない。
それにも関わらずオドワを欲する妊婦が多いのは文化や習慣を通じて「これを食べると体にいい」という文化あるいは迷信が広く浸透し、栄養摂取というよりもむしろ精神的に安心するためであるかもしれない。
オドワが欲しくてたまらないという妊婦はそれなりにおり、妊婦が安心するためにオドワを食べることもそれはそれで必要といえるが、何かを集中的に食べることは健康に良いとはいえない。健康はバランスの良い食事から、だ。
ケニアに文化として広まっている石を食べる習慣。もしオドワを見かけたら味見をするくらいは挑戦してみてもいいかもしれない。
筆者:Lucy wangari、長谷川 将士
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