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社会保障の給付方法の好みはジェンダーと世代で異なるかもしれない。現金給付プログラム(Cash Transfer)は開発途上国の貧困と不平等の是正に効果があるとされ、様々な角度から実証研究がされている。現金給付プログラムは、貧困層に対して現金を給付することで所得の向上をはかる社会政策の一つとして広く認識されている。現金の使途は限定されないことが多く、受給家庭はそれぞれの事情に応じて貯蓄、投資、嗜好品、教育などへ自由に使うことができる(※現金給付プログラムについてはこちらも参照頂きたい)。

英国サセックス大学開発学研究所(IDS)の研究チームが先日成果発表した研究は、「貧困層がどのようなタイミングで現金給付を受け取りたいと思っているか(受給者の時間選好)」を検証したもので、特に世代の違いや男女差に注目している点で興味深い。たとえば、平均年齢30歳の若い家庭と60歳の老夫婦では給付金の使い道が異なるだろうし、男女差もあると考えるのは自然なことだ。直観的に理解できるこうした憶測を実証的に検証した論文である。

孤児や脆弱な子供たちに対する現金給付プログラム

Kajiado, Kenya. 2010

研究の対象は、ケニアで大規模に実施されている孤児や脆弱な子供たちに対する現金給付プログラム(Cash Transfer for Orphans and Vulnerable Children: CT-OVC)。世界銀行によれば、2011年3月時点で、孤児や弱い立場にある子供約25万人(最も貧しいOVCの約40%、約8万世帯)が受給し、貧困削減、就学率、ID登録の改善に寄与していると評価されている。

運営費(給付総額を除く経費)は40%から25%へ減少傾向にあり、実施機関の能力強化とともに費用効率も改善傾向にある。今後、約10万世帯をカバーすることを想定した場合でも名目GDPの0.07%の予算規模で賄えるとみられ、低コストのプログラムであると世界銀行は評価している。

若者は今を生き、中年はのんびり、老人は再び今を生きる

サンプル調査の対象者は、「もし宝くじがあたるとすればいくら欲しいか」を尋ねられた。今すぐ1,500シリングを受け取るか、今はじっと耐えて将来9,000シリングを受け取ることを選ぶか。待てば待つほど賞金は高くなる仕組みの中、世代間、男女間でどのような思考パターンの違いがみられるかがテストされた。

研究手法こそ学術的に洗練された方法(ランダム化比較試験(RCT))をとっているが、結論はとてもシンプルだ。中年世代は若者世代や高齢者層よりも長い視点で物事を考える。また、若い女性は男性に比べて短期的に物事を考え、高齢者層では男性の方が女性より短期的に物事を考えるようになる。

現金給付プログラムの制度改革へヒント

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行動経済学の分野で学術的に意味のある論文だと感じる一方、具体的な政策提言がなされていない印象を受ける。私なりに解釈すれば、政策的付加価値は次の2点に集約されると思う。

第一に、現金給付プログラムの給付額の決定にヒントを与えるだろう。今回の研究で、現金給付プログラムの受給家庭は世代やジェンダーによって、短期的に少ない金額を好む人々と長期的な計画を立ててより大きな額を手にしたいと考える人々がいることが分かった。従来の現金給付プログラムでは、世代やジェンダーによって給付額や給付期間を変えるような運用をした事例は私が知る限りない。受給者の時間選好(将来/現在に消費することを好むこと)にあった給付方法をとることで、より消費者目線に立った制度設計が可能となるかもしれない。

第二に、ケニアでの研究成果は、他のアフリカ諸国へも応用可能なヒントかもしれない。研究対象のCT-OVCは元々、条件付き現金給付プログラム(CCT)の元祖、メキシコのプログレッサ・オポチュニダやブラジルのボルサ・ファミリアを手本としている。多くのサブサハラアフリカ諸国がこれらのプログラムを手本としていることから、ケニアでの研究成果はこれらの国の社会政策へ大きなヒントとなりえるかもしれない。


参考資料:Martorano et al (2015) Age and Gender Effects on Time Discounting in a Large Scale Cash Transfer Programme.

Povertist

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Ippei Tsuruga
The Povertistの編集長。アジアやアフリカでの開発援助業務に従事する貧困分析・社会政策のスペシャリスト。国際労働機関(ILO)児童労働撤廃プログラムインターンの後、国際協力機構(JICA)入構。アフリカ部ケニア、ソマリア、ナイジェリア国担当、研究所リサーチオフィサー、研究調整者、副調査役を経て、アメリカ事務所駐在員。現在は、ILOで開発途上国の貧困層に対する社会保障制度設計に従事している。香川大学法学士、英国サセックス大学開発学研究所貧困と開発修士。