保険金の支払い基準は、人工衛星からの画像
Satelliteもう一つ面白い例があります。これもケニアの例ですが、天候保険(Weather Index Insurance)という新しい保険商品が開発されつつあります。ケニアの北部地域では、いまだに家畜を放牧して生きている人々がいます。彼らにとって家畜は貯金であり、投資です(子牛が生まれることは、投資に対するリターン)。これらの人々にとって、毎年頻発する旱魃はまさに脅威。旱魃によって牧草が無くなることは、全財産を一気に失うことに直結するリスクすらはらんでいます。
そこで家畜に対する保険商品が生まれたのです。しかし、問題はどのように運用するかです。モバイルネットワークもなければ、そもそも定住もしていない人々が対象です。どの地域が干ばつの被害を受け、家畜が死んだことと、旱魃の因果関係をどう証明するのか。保険金の支払いを決める「トリガー」をどうするかが運用上の課題でした。
そこで考えられたのが、人工衛星の活用です。今の時代、人工衛星から「どの地域の牧草が少ないか」くらいはわかるそうです。もうお分かりかもしれません。つまり、人工衛星から牧草地の面積を観察し、面積が○○%減少すると、保険金を支払う。そういった保険商品が開発されたのでした。
開発途上国のデジタル化の傾向はもう誰にも止められない
このように、開発途上国では情報通信技術(ICT)が社会保障分野で広く活用されつつあります。今回は、私の専門分野から見えるデジタル化の流れをご紹介しましたが、他のセクターでもICTが広く活用されていくトレンドは、もう止めることはできません。
モバイルバンキングについては、日本よりもケニアの方が進んでいるといわれます。また、ICTを活用した現金給付プログラムは、途上国で生み出され、先進国が導入する例もあります。開発とICTは今後、ますます注目を集める分野となりそうです。