社会保障 × ICT で開発途上国の貧困問題に立ち向かう〜ケニアの現金給付プログラム〜

世界銀行の今年の世界開発報告書(WRI)のトピックは、インターネットとデジタル化でした。途上国の開発援助の世界では、インターネットやデジタル化は「情報通信技術(ICT)」という分野で議論されます。私はICT分野の専門ではなく、貧困層向けの社会保障(Social Security)あるいは社会的保護(Social Protection)という分野を専門としています。一見すると、ICTと社会保障は無縁のように思うかもしれません。しかし、開発途上国で社会保障制度を運用するために、ICTは欠かせないツールとなっています。

今回は社会保障セクターから見たICTについて、ご紹介したいと思います。

ケニアの現金給付プログラムがハイテクで面白い!

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例えば、ケニアの例が面白いです。ケニアでは、孤児と貧しい子供たちを対象として定期的に生活保護給付を行うプログラムが大規模に実施されています(Cash Transfers for Orphans and Vulnerable Children)。また、乾燥地帯に居住する貧困層を対象とした現金給付プログラムもあります(Hunger Safety Net Programme)。これらはメキシコやブラジルで始まった社会政策プログラムをモデルとしており、一般的には条件付き現金給付プログラム(CCT)や無条件現金給付プログラム(UCT)と呼ばれるものです。

最初に、プログラムの仕組みから説明しましょう。最初のステップは、誰を対象として現金給付を行うかを決めることです。これを、ターゲティングと言います。複雑な話は省きますが、ターゲティングはほとんどの場合、二段階で実施されます。まず、貧しい地域を選びます。州、県、市、町、村レベルで絞り込み、貧しい地域を探し、対象とする地区を決めます(全国展開が決まっているプログラムであれば、対象地区は全国です)。次に、対象地区の中で孤児と貧しい子供たちを選定しなければなりません。子供の定義は年齢で、貧困の定義は所得や消費です。調査員が農村へ入って、家計調査を一軒一軒行い、世帯構成や経済水準を調査していきます。調査員が見つけ出せない人々もいますので、参加型の手法もしばしば採用されます。例えば、村長さんや地区のリーダーが「あの家庭は貧しいから給付を認めてやってくれ」など推薦する場合もあります。

タブレット端末で家計調査、モバイルバンキングで送金

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さて、こうして得られた家計データをもとにどのように給付を行うのでしょうか。今の時代、一連のプロセスはペーパーレスで行われることが多いです。調査員がタブレット端末に直接家計調査のデータを入力し、即座に中央省庁・監督官庁の担当者のもとへモバイルネットワークで送信される仕組みも一般的となりつつあります(Management Information System: MIS)。送られた情報をもとに、対象家庭が選定されます。その後、ICチップが搭載されたIDカードが発行されたり、受給窓口で生体認証(指紋や目など)を行い、受給者確認を行う技術も導入されつつあります。

では、サバンナの真ん中で、どうやって現金を手渡すのでしょうか。ケニアではモバイルバンキング(M-PESA等)が発達しています。携帯電話で送金を行い、町の売店でお金を受け取る仕組みです。アフリカのサバンナの見渡す限りの草原を想像してみてください。携帯の電波が無いと送金できないのでは?そういう声が聞こえてきそうです。

今の時代、何もないサバンナのド真ん中でも社会保障の給付が出来るのです。どんなに離れている村でも、市場と村をつなぐ商人が存在します。商人にカードリーダーを渡しておけば、電波の無い村でも受給者のIDカードを読み込み、カードリーダーにデータの受信記録を残すことができます。商人が電波の届く地域(市場など)に戻ってきたとき、カードリーダーは自動的に交信を行い、社会保障の給付状況の個人データが中央省庁・監督官庁へ送信される仕組みです。これらの情報をもとに、受給者の代わりに商人は町の売店でお金を引き出し、村まで現金を運べば給付が完了します。

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