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あなたはこれまで何回銃を向けられたことがあるだろうか?おそらく日本人にこの質問をしてみたところで、たちの悪いジョークに聞こえるだけかもしれない。しかし、筆者はこれまで何回もケニアで銃を向けられてきた。おそらく十回はいかないくらいだろう。

そして、そのほとんどは警官によって向けられたものだ。ある時は脅しのため目の前で銃弾が装填され、薄ら笑いを浮かべながら銃口をこめかみに突き付けられた。大抵の場合、普通に町を歩いていた時のことだった。

ケニアではガードマン、巡回する警官、移動中の陸軍隊員など、日本に比べて銃を目にすることが多い。そのような中で普通の日常を過ごす人々が警官によって銃で脅され、賄賂を支払わざるを得ない場面にもよく出会う。

「人を守る」ことを名目に銃の携帯が許可されているはずのケニアで、なぜその銃口が人々に向けられるのだろうか。私が住んでいる町で起こった出来事を二人の知人の体験談から紹介したい。なお、この知人たちは私と頻繁に交流がある者であり、名前以外はすべて事実であることを明記しておく。

木曜の夜の悪夢

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トゥコとアブドゥルは木曜の夜、ドンホルムという町のある酒場で飲んでいた。地元民がカルテックスと呼ぶガソリンスタンドの近くで、時刻は午後八時を少し回ったところだった。小腹が空いたので別のレストランで軽くつまもうということになり、それなりに人でにぎわう道を歩いていた。

たまたま会ったトゥコの友人と談笑しているときのことだった。背後からいきなり警官に「止まれっ!」と呼び止められ、何が何だか分からないまま、その場に居合わせた5名の若者たちは警官と向き合った。

「おいおい、何かあったのか」とアブドゥルが問いかけてみるも、警官は「止まれ」と命令を続ける。そして、携帯している銃の弾丸を装填し、鈍く嫌な音が鳴った後、その銃口はこちらに向けられ、説明もないままジッと銃と対峙した。

立ちすくむ若者たちを尻目に警官は携帯電話で応援を呼び、瞬く間に2名の警官がやってきた。このまま警察に連行されると面倒なことになる。トゥコは知り合いのMCA(Member of County Assembly、日本でいう市議会議員のようなもの)にすぐさま電話をし、警官への説得を試みた。

しかし、警官が電話の向こうにいる面倒なMCAと話す気になるはずはない。結局警官にとりあってもらうことはできず、そのまま移送車でブルブルという町にある警察署に連行されることとなった。

「銃をちらつかせて賄賂をせびろうとする。しょっちゅうあることだ。ひどいもんだよ」と、アブドゥルは語った。

車上での横暴

移送車にはすでに20名ほどが捕まっていた。多くは男性だったが、女性もいる。ある若者が「これからどこに連れていかれるんだ」と警官に尋ねた。警官はおもむろに若者の頬を何度もひっぱたき、黙るまでそれは続けられた。

拘束された人たちの名前と国民IDカードを確認している最中、こんなやりとりもあった。警官がIDカードを見て、いきなりこう言いだしたのだ。

「おいおい、彼はキクユ人じゃないか。彼が政府や我々にたてつくことはない。解放しよう」

解放されることになった若者はトゥコとアブドゥルの友人で、さっきまで路上で談笑をしていた相手だった。自分たちも全く同じ状況だったはずだ。それなのに、民族の違いで彼は解放され、自分たちは車上に取り残されることとなった。理不尽を目の当たりにしつつも、彼らにできることは何もなく、結局口をつぐんだまま警察署へ移送された。

金で買える自由

警察署に着くとすぐに、露骨な賄賂要求が始まった。これが本業と言わんばかりに、手を変え品を変え、賄賂をよこせとせびってくる。

「ここはケニアだ。釈放には賄賂を与える必要がある」

トゥコとアブドゥルは辛抱強く警官をなだめすかしたが、数千シリングを払って早々と解放されたものもいたという。そして、交渉を誤り、そのまま刑務所に送られてしまった若者も数人いた。トゥコとアブドゥルが解放されたのは、結局夜が明け、昼下がりになった頃だった。

ケニアの警官について思うところはあるかと聞いたところ、二人は諦め顔でこんなことを言った。

「ケニアのポリスについて思うこと?彼らはプロフェッショナルじゃないよ。賄賂をもらうためなら何でもやっている。それがポリスの仕事であるはずがない」

「彼らの行為に正義はあるかって?絶対にない、断言できる。ケニアに良いポリスがいたとしても、全体の2%くらいなもんだろ」話の締めくくりとして、最後にケニアのこんなジョークを教えてくれた。

「ケニアにはポリスに対してこんなジョークがある。警官が奥さんに向かってこう言うんだ。ウガリ(ケニアの主食)を作っておけ、俺は肉をとってくるって。そんで外に歩いて行って、適当な奴を捕まえて、最後は家に肉を買って帰ってくるわけだ。どういうことか分かるだろ?」

ナイロビ東部の「よくある出来事」

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この事件が起こったのはナイロビ東部の新興中間層が多く住む町だ。周りのエリアと比べて治安が良いと評判で、大手企業や省庁に勤めている者も住んでいる。それにも関わらず、こうした警官による職権乱用は常態化しており、さして珍しいことではない。

言うならば、定期的に開かれるパーティの様なものだ。もちろん、主催者は警官で、「哀れな招待客」は手荒な歓迎から逃れることはできない。

ナイロビ内で比較をしたとき、アブドゥルは警官の対応に違いがあると指摘している。

「こんなことはケニアではよくあることだ。特にナイロビの東部ではね。スラムだと警官がもっと暴力的だから、ここら辺はまだマシな方だ。例えばウェストランズ(ナイロビ西部の町。日本人居住者も多く住む)で警官と衝突したとしても、彼らのやり口は全く違う。ウェストランズに住んでいるような人は知り合いに弁護士がいたり、権力者がいたりするから、警官が無茶できないんだ。相手によって対応が全然違うよ」

同じナイロビでもほんの数百メートル違うだけで、そこに住む人々も警官の対応も大きく異なる。権力と暴力を背景に金をせびろうとする警官にすれば、東部の住民はほどほどに金を持っており、なおかつ面倒な弁護士や権力者とは無縁な「都合の良いお客様」なのかもしれない。

ナイロビでは日常の中で警官の横暴に相対することも多く、侮蔑感と不信感、あるいは恐怖を持っている住民が多い。ナイロビ東部のこのような「日常」が変わる日は来るのだろうか。


※写真は全てイメージです。

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長谷川 将士

長谷川 将士

株式会社グラスルーツウォーカーズ代表取締役CEO
二十歳からケニアでフィールドワークを続け、大学院時代に行った調査が共著論文として書籍に掲載されています。専門はアフリカ政治経済学(特に紛争及び市民暴力)。最近は中間層論と経済成長論に関心有り。日本のアフリカ報道と学術研究やフィールドワークから見えるアフリカ像が大きく異なることに疑問を抱き、エビデンスに基づいた現場発信型メディアを立ち上げるべく、ケニアで奮闘しています。