こんにちは。南アフリカ、トランスカイ地方で暮らす随筆家バンベニ桃です。
今日は「物を持たずに豊かに生きる」ことをモットーに、アフリカ流の引き算の暮らしを実践する筆者の暮らしをご紹介します。
第2回:アフリカ流・引き算の暮らし
南アフリカのトランスカイ地方の旧首都ウムタタという街にある我が家はトレーラーハウスだ(キャラバンハウスともいう)。小さい家に住むということは、荷物が最低限しか収納できないということである。

私は10年前のヒッチハイクの旅で、45Lのバックパックに入るだけのものだけで生活してからは、物をあんまり必要としなくなった。生きるのに必要なものなんてほんの少しなんだ、と気がついたのだ。大抵のアフリカ人もあまり物を所有しない。移住してこのシンプルなトレーラーハウスで暮らし始めた時に、必要だと思うものを全て買い揃えるのではなく、気に入ったものを少しずつ集め、ないものは、ないなりの知恵を持って生きようと決めた。

同じくコサ族の夫も、余計なものは買わない主義だ。私たちはなるべくシンプルに生きたいという共通点がある。持っているものが壊れれば、修理して使う。自分で作れるものは作る。日本ではゴミ同然のようなものも、アフリカ人は修理して、修理して、修理して使い込む。そのうちにだんだん愛着が湧いてきて、どんなに機能のよいものよりも愛おしくなる。
ターコイズが入ったお気に入りのサンダルは、もう5年近く頻繁に履いているが、修理屋が手軽にどこにでもあるアフリカでは、靴底がすり減れば替えてもらえるし、何度も修理を重ねて大切に履くことができる。しかも修理代はR20(約150円)程度とお安い。
私は物を購入する時は、本当に欲しいのかどうかをじっくり吟味して買うので、一度買ったものというのは全てお気に入りだ。お気に入りに替わるものはない。私は好きかどうかわからないものを買う、ということあまりしない。そうして手に入れたお気に入りの物は、長く使えば使うほど、愛着が湧いてくる。だから気軽に修理しながら使い続けることのできるこのアフリカ文化をとても気に入っている。

たくさん稼いでたくさん使う、アフリカで暮らし始めて、私はそのスタイルに豊かさを見出せなくなってしまった。消費が少なければ、たくさん働く必要もなく、自由な時間が増える。平均的にアフリカ人は、経済的には貧しいが、たっぷりと時間を持っている。私はアフリカの暮らしで自分の時間があることの豊かさを学んだ。怠け者になりたいわけじゃない。自分のことを自分でできる時間。思いついたことにチャレンジできる時間。私にはそんな時間が必要だと気がついたのだ。物を買わない引き算の暮らしは、時間に余裕を持たせてくれる。
必要なものは案外、いつの時代もどこの国でもシンプルで普遍的だったりする。アフリカで実践する「引き算の暮らし」はどんどん私の暮らしをシンプルにしてくれる。日本で暮らしていた時に買うことで成り立っていた「足し算の暮らし」よりも、快適度には欠けるが、出費も減り、欲しいものを探し回る時間も減り、余裕がでてくる。そして生きる知恵も付く。持っている物の数は減ったけど、生活が豊かになるということに気がついた。子育てや、畑仕事、ガーデニング、自分の家をDIYする時間も増え、内面的にも充実する。

ちょっとくらい破れた洋服も平気で着こなすのがアフリカ流。それに習って私も洋服を着尽くすようになった。だから丈夫な物を選ぶ。昨年、同じ南アフリカで暮らすニットデザイナーの日本人の友人に「ダーニング」という、破れた洋服をオシャレに変身させる知恵を教えてもらった。お金は生きていくのに必要だけど、知恵があれば乗り切れることもある。ダーニングをした洋服は、もとのシンプルなデザインよりオリジナリティが出ていい感じになる。こうして大切に一枚の洋服を着尽くすことができるようになった。

流行に流されない自分のスタイルを知ることができれば、今年買ったものが、たったの一年で古くなったりすることもない。箪笥に入らないほどの洋服を持つ必要がないことにも気がつく。大切なのは着ている物ではなく、それを着ている者。
アフリカ流・引き算の暮らしはこんな感じ。
一つずつ引いていったら、本当に大切な物が見えてくる。物が溢れているこんな時代だから、本当に必要なものを見失わずに、大切に使い続けたい。