アフリカって何だろう? “小さな視点”で掘らないと自分の言葉で語れない
「現地に行けばわかるよ」。こんなことを無責任に言う人がいる。ふつうに行って何がわかるのか。アフリカを一般化するのではなく、小さなことに着目して、ディテールを掘り下げたほうが自分の言葉で語れるようになる。これが、途上国・国際協力に特化したNPOメディア「ganas」がアフリカなどで主催する記者研修プログラム『Global Media Camp』のこだわりだ。
写真:アフリカ最大の水上集落ガンビエで取材するGlobal Media Camp inベナンの参加者。ガンビエの住民は独特の言葉を話すため、参加者1人に「通訳2人」が付くことも。万全の体制で取材できる
なんでいまさらパイナップル?
「アフリカに来るのは3度目。でも西アフリカのベナンで取材をしてみて、アフリカの別の国について自分がいかに何も知らなかったのかを痛感した。何か語ろうとしても、抽象的な言葉しか出てこない」
こう話すのは、関東の大学に通う3年生(当時)。彼女は大学でアフリカ系のサークルに入っていた。いわゆる“行動力のある大学生”だ。
そんな彼女がGlobal Media Camp in ベナンに参加し、注目したのは、スタートアップ企業。要望を受け、このプログラムのコーディネーターを務めるNPO法人AYINAの内藤獅友氏が取材先をアレンジしてくれた。
Global Media Campでは取材は基本、参加者1人、取材対象1人、英語と現地語(フランス語、フォン語など)の通訳1人の3人グループで進める。現地の誰かからレクチャーを受けるのではなく、個々で質問し、情報を引き出すというスタイルをとる。
大学3年生が取材したスタートアップ企業のひとつが、パイナップルジュースを売る会社のベナン人経営者だった。
渡航前の下調べで、ベナンではパイナップル栽培が盛んであることはわかっていた。ジュース会社も他にあることも知っていた。だから大学3年生は「どうしていまさらパイナップルなのか」とストレートに聞いてみた。
返ってきた答えは「大量のパイナップルが売れずに、畑で腐っている。それがもったいないと思ったから。なんとかしたい」。
なるほど。モッタイナイの精神はわかる。とはいえ、ビジネスとして儲かるのか。パイナップルは手作業で絞るのか。商品はどうやって売るのか。ビジネスの流れを生産から販売まで考えたとき、わからないことだらけだった。
ディテールを知ろうと、彼女は質問を重ねていった。
わかった気では記事は書けない
2時間超の取材を通して浮き彫りになったのは、知られざる苦労とそれを乗り越えたストーリーの数々だ。
会社を設立した当初は、パイナップルの皮を手作業でむき、実をつぶしていたという。当時の苦労をベナン人経営者はこう説明してくれた。
「パイナップルはいったん切ったら、すぐに酸化してしまう。そうなるとジュースには使えない。ムダを出さないように、皮をむいてから実をつぶしてこすまでがスピード勝負。試行錯誤の連続だったよ」
販売も苦戦した。商品を知ってもらうために、業者向けの試飲会や、生産プロセスの見学会を開催。この戦略が功を奏し、業者から高く評価され、知名度が上がっていったという。
ちなみにベナンでは10年ほど前から健康志向が高まり、国産の100%ジュースが出回り始めた。このため競合他社が多いとのことだ。
この会社は2018年に、搾汁用、殺菌用、ジュースの冷却用、ビンへの詰め替え用の4つの機械を導入した。脱・手作業。投資額は日本円にして84万円。だが生産性がアップしたことで、2018年の売り上げは約360万円と3年前の25倍になったという。
▼完成した記事がこちら。
当たり前だが、日本でもアフリカでもビジネスには苦労が付き物だ。そのプロセスを「取材」という名目で根掘り葉掘り聞けることは想像以上に楽しい。表層的な理解だと記事は書けないから、細かく聞いていく。自分の中での納得感を高める作業だ。
参加した大学3年生は最後にこう振り返った。
「深くて細かい情報をとってくる『インタビュー力』がいかに重要なのかがわかった。たぶんこうだろうと決めつけないで、なんでも質問したほうがおもしろくて正確な記事になる。プログラムの期間中に、自分が少しずつできるようになっていく感覚が楽しくて頑張れた」
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