取材を通じてアフリカの現場を掘り下げる記者研修プログラム”Global Media Camp”の魅力に迫る!

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写真:日本人参加者、取材を受けてくれたベナン人画家、通訳のベナン人。取材は1グループ3人(参加者、取材対象者、通訳)で進めるので、大人数になる。そのぶん現地の人と話すチャンスは多い

不条理を知って泣きじゃくる

大学1年生(当時)で参加した大学生もいる。AIESECに所属する彼が興味をもったのは、アフリカの負の側面。旧宗主国フランスに搾取されるベナンが抱える闇だ。

主な取材対象は、ベナンを代表する社会派ミュージシャン兼活動家のカマル・ラジ氏。ベナン人ではだれもが知る有名人だ。

取材の中でカマル氏が発した「西アフリカはまだ本当の独立を果たしていない」との言葉に強い衝撃を受けた19歳は、西アフリカの共通通貨であるセーファー(CFA)フランのことを初めて知る。

「CFAフランのレートを決めるのはフランス政府だ」と語るカマル氏。19歳は「ということは、モノの値段を決めるのはフランス政府のようなもの」と気づき始める。

だがCFAフランをなぜ廃止できないのか。19歳は当然、こんな疑問をもつ。それを取材でぶつける。

わかったのは、西アフリカの政治家がフランスに逆らいたくてもそれは不可能に近いという事実だ。

フランスとベナンの両国籍をもつ活動家ステリオ・カポ・チチ(通称:ケミ・セバ)氏は2017年、「CFAフランを廃止しろ」とフランス政府へ抗議する目的で、同じ西アフリカのセネガルでCFAの札を燃やすパフォーマンスをした。これに呼応し、ベナンではカマル氏がデモ行進を呼びかけた。だがこの一件でケミ・セバ氏はセネガルから国外追放される。

「西アフリカ諸国の大統領はCFAフランを廃止したくても、それを言えばフランスに暗殺されてしまう。政治家はフランスの言いなりになるしかない。西アフリカは“経済的な奴隷状態”だ。CFAフランの廃止こそ、西アフリカの真の独立だ」(カマル氏)

カマル氏の勢いのある言葉のひとつひとつは、日本の温室育ちの19歳の胸に突き刺さる。伝わる記事を書くためにはまず、自分がきちんと理解しないといけない。ベナン人活動家に食らいついた10日間は、彼にとって生涯忘れないチャレンジになっただろう。

プログラムのフェアウェルパーティーで19歳は泣きじゃくった。「21世紀なのに、こんな不条理がベナンにまだ残っているなんて‥‥」。自分の足で取材したからリアリティーがある。

▼19歳が書いた記事がこれだ。

西アフリカ15カ国が加盟する「西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)」は2019年6月、CFAフランに代わって、2020年までに単一通貨ECOの導入を目指すとの声明を発表した。脱フランスの一歩となるかどうか。次の取材でカマル氏に考えを聞いてみたい。

 ベナン在住の日本人も知らない!?

Global Media Campで頑張って記事を書いた参加者ひとりひとりには、それぞれ違ったストーリーがある。上で紹介した2人はほんの一例だ。アフリカをマクロでとらえるのではなく、ミクロで掘るからこそ、取材した内容がたとえ一面にすぎなかったとしても、心の中に入り込んでくる。

又聞きでは絶対に得られない納得感。それを聞き出し、伝わる文章に落とすスキルとの闘い。毎日が刺激的だ。なんとなくわかって終わり、ということはない。翌日また取材へ出かけるから、うまくいかなかったとしてもすぐにリベンジできる。

Global Media Campに参加するのは学生だけではない。比率的には6割は学生、4割が社会人だ。

ベテランバックパッカーの社会人が参加したこともある。この30代の女性はアフリカを何度も旅してきたため、どんな物を食べているのかとか、物価とか、旅行ガイドブック的な知識は豊富だった。

その彼女が苦労して書き上げた記事がこれだ。取材のあとに「旅だと、すべてはモヤモヤとしてわかるようでわからない。でも今回は、ベナンのバイク事情についてクリアに理解できた気がする」とスカッとした表情で語ってくれた。ベナン在住の日本人の何割がこの記事に書いてあることを知っているのだろう。

最後に、Global Media Campの参加者の声をもう少しだけご紹介したい。

「個人では行きにくい国に行けて、しかも通訳付きで取材できるのはその国のことを知れておもしろい。『ベナンのことはベナン人が良く知っている。ベナン人に聞け』という言葉が身にしみた」

「自分の好奇心をここまで追求できるプログラムはない。『記事を書く』という前提があるから、普段なら絶対に聞かないことを質問し、その結果、意外なことがわかる。英語で取材するのもすごく楽しかった」

「外国人とここまで蜜にコミュニケーションをとったことはなかった。良い記事を書くためには、少しでも多くその国のことを知ることが必須だから、必死に取材した」

「西アフリカ・ベナンの水上集落は、家にお邪魔したり、コミュニティーのリーダーに取材できたりと刺激的だった。取材中にどれだけ質問しても、記事にすると、その1割ぐらいしか使えない。伝えようと思ったら、細かく質問しないとダメだと痛感した」

「『アフリカの人=生活に困って援助を求める人』というイメージをもっていた。だがそれは間違いだと気づいた。自分で事業を立ち上げ、夢を追う人たちとたくさん出会った。取材では、旅行とは比べられないほど濃い話ができる。ベナンを知ることは楽しかった」

「取材を通して学べたのは、相手の話の点と点を結びつけ、ストーリーとして発信する力。魅力的な他の参加者に出会えたのも財産」

「取材する際に、オープンクエスチョンに頼りすぎない必要性を身にしみて感じた。知識がなくても『なぜ』『どのように』を使えば、簡単に質問できる。でもそれでは、相手は答えにくいし、なにより自分の頭で考えることを放棄することになる」

「記事を書いてみて、『自分が伝えたいこと』『切り口』がいかに抽象的かを思い知った。社会問題など『大きいこと』に切り込みたいのなら、『小さいこと』への問いが欠かせないとわかった」

 「現地の人とのコミュニケーションのとり方、質問の仕方、文章の書き方などを学べた」

 「自分の固定観念が崩されるネタが取材で見つかったときはすごく嬉しかった。(記事として)言語化すると、わかっているようで意外とわかっていないんだなと気づくことが多かった」

 「アウトプット(記事化)を前提としたインプットの重要性が身に染みてわかった。インタビューしても、自分が満足する情報量と、記事として人に伝えるための情報量は全然違うと実感した」

Global Media Campプログラムの概要!

寄稿者プロフィール

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長光大慈(ながみつ・だいじ)

途上国・国際協力に特化したNPOメディア「ganas」編集長/特定非営利活動法人開発メディア代表理事。雑誌「オルタナ」編集委員。上智大学法学部を卒業後、アジア最大の日本語媒体であるNNA(現在は共同通信グループ)のタイ支局とフィリピン支局を立ち上げる。電気新聞記者、フリーライター、デベックス・ジャパン・メディア部門責任者などを経て現職。合計10年以上の海外在住経験(米国、タイ、フィリピン、インドネシア、ベネズエラ)、およそ45カ国の渡航経験をもつ。青年海外協力隊のOBでもある。ハンモックのコレクター。


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