グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)が支援する小児用住血吸虫症治療薬「arpraziquantel」の導入が大きく前進しました。
本治療薬は、小児用プラジカンテル・コンソーシアムによって開発され、ドイツのメルクが臨床最適化を実施。2025年3月、ウガンダでの実装研究において初めて就学前児童に投与され、アフリカ諸国への本格的な普及に向けた重要な一歩となりました。
GHIT Fundは2013年より本プロジェクトを支援しており、日本と国際的なパートナーシップを通じて、世界中の顧みられない熱帯病(NTDs)に対する医薬品開発を推進しています。
ウガンダで初投与、住血吸虫症治療の新たな局面
住血吸虫症は、特にサハラ以南のアフリカで深刻な健康被害をもたらしている寄生虫疾患です。世界では約2億5,000万人が感染しており、そのうち約5,000万人は就学前児童とされています。
感染経路は主に淡水での接触であり、皮膚から体内に侵入した寄生虫が臓器を攻撃し、慢性炎症、発育不全、貧血、学習障害を引き起こすことが知られています。
しかし、これまで小児向けの適切な治療薬が存在せず、多くの就学前児童が治療を受けられない状況が続いていました。
今回、ウガンダにおいてGHIT Fundが資金提供する小児用プラジカンテル・コンソーシアムによる実装研究「ADOPTプログラム」の一環として、「arpraziquantel」の初投与が実施されました。これはGHIT Fundの設立以来、初めて実装研究の枠組みで現地の子どもたちに治療薬を提供する事例となります。
本薬は、水に溶けやすく、苦味を軽減した小児向け錠剤として開発され、幼い子どもたちが服用しやすい仕様になっています。今後、この成果を基に、ウガンダのみならず、コートジボワール、ケニア、さらにセネガルやタンザニアといった国々へ拡大する計画が進められています。
日本と海外の協力が生んだ画期的な医薬品
「arpraziquantel」の開発は、日本と海外の製薬企業、研究機関が連携し、長年にわたる研究開発の成果として生み出されました。アステラス製薬が初期の製剤開発を担当し、メルクが臨床開発と最適化を実施。ブラジルのフィオクルス財団の医薬品研究所ファルマンギーニョスで製造され、現在は臨床試験用の供給が行われています。
今後は、アフリカ市場向けの生産体制を整備するため、ケニア・ナイロビに拠点を置くユニバーサルコーポレーションと連携し、大規模な現地生産が計画されています。
GHIT FundのCEOである國井修氏は、「arpraziquantelの開発は、日本と国際的なパートナーシップの力によって実現したものであり、GHIT Fundのミッションを具体化する重要な事例である」と述べています。
GHIT Fundは、2013年の設立以来、日本政府(外務省・厚生労働省)や製薬企業、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、国連開発計画(UNDP)などの支援を受け、マラリアや結核、NTDsなどの感染症と闘う新薬開発を促進しています。
今回のarpraziquantelの成功を皮切りに、今後もさらなる革新的な医薬品開発と普及を進めていく方針です。
国際認証と普及に向けた次のステップ
arpraziquantelは、2023年12月に欧州医薬品庁(EMA)から肯定的な科学的見解を受領し、2024年5月には世界保健機関(WHO)の事前認証済医薬品リストに登録されました。
これにより、今後の国際的な流通と普及の道が開かれ、2025年にはWHOの必須医薬品モデルリストへの収載が期待されています。この動きにより、多くの住血吸虫症まん延国での治療が加速することが見込まれます。
GHIT Fundのアクセス担当シニアディレクターであるアイザック・チクワナ氏は、「住血吸虫症治療薬の普及には、政策の枠組み、薬事承認の取得、実施モデルの確立、各国の医療資源の動員など、多くの課題がある。各国の経験を共有しながら、より効果的な導入戦略を構築していくことが重要である」と述べています。
GHIT Fundは、今後もarpraziquantelのさらなる導入支援を進めるとともに、新たな治療薬の研究開発を支援し、世界中の公衆衛生改善に貢献していきます。
- 記事提供元:GHIT Fundが支援する製品開発プロジェクトが大きく前進|PR TIMES