JICA農業普及の柱「SHEP」の進化と広がり!~JICA専門家 山田さんが語る8年間~

ケニアで2006年に始まったJICAの技術協力プロジェクト「小規模園芸農民組織強化計画プロジェクト(SHEP: Smallholder Horticulture Empowerment Project)」から生まれたSHEP(Smallholder Horticulture Empowerment and Promotion)アプローチは、「食べるための農業から稼ぐための農業へ」というコンセプトで小規模農家の自立を促し、これまでにアフリカ32か国で、多くの成果を上げてきました。

2025年12月にはケニアの第4フェーズ「SHEP Biz」が終了予定で、いま新たな挑戦のスタートラインに立っています。

本記事では、現地で8年間SHEPプロジェクトに携わってきた山田かおりさんに、これまでの歩みや現場で見えた課題、新しい可能性についてお話を伺いました。また、2025年8月20日〜22日の第9回アフリカ開発会議(TICAD9)のサイドイベントとして開催されるSHEPの関連イベントについてもご紹介します。

SHEP(シェップ)とは?

SHEP(Smallholder Horticulture Empowerment Project)は、2006年にケニアで始まったJICAの技術協力プロジェクトです。「食べるための農業から稼ぐための農業へ」という発想の転換を掲げ、小規模農家が市場志向型の農業経営を実践できるよう支援してきました。

第5回アフリカ開発会議(TICAD 5)で高く評価されたSHEPアプローチは、その後アフリカ10か国に展開されることが公約され、SHEP発祥の地・ケニアはSHEP広域展開の拠点となりました。

本記事では各SHEPフェーズの詳細については触れませんが、概要については以下のリンクからご覧いただけます。

今回はTICADイベントでの登壇に合わせて、現地で8年間SHEPに携わる山田かおりさんにお話を伺いました。

現地で8年間SHEPに携わる山田かおりさんにインタビュー!

■ 研修担当者としての第一歩がSHEPとの縁に

ーー山田さんがSHEPに関わり始めたきっかけを教えてください。

▶ 私はもともとJICA関西センターで研修事業を担当しており、TICAD 5後のSHEP広域化の始点となるSHEPの行政官向け研修にかかわったのがきっかけです。

その研修では、JICA本部や協力いただいた自治体・関連機関とともに、東南部アフリカ10数か国の行政官にSHEPのコンセプトを伝える研修デザイン・実施を担当し、その後ケニアでの専門家ポジションに応募しました。

2017年にケニアに赴任して、今年でSHEP事業に携わるのも8年目となりました。

■ SHEP PLUS(第3フェーズ)の現場から

ーーSHEPはケニアから始まり、特に第1フェーズ・第2フェーズではかなりの進展があったように思えますが、山田さんが関わり始めた第3フェーズはどうだったのでしょうか?

▶ そうですね。私が参画する前までの第1フェーズから第2フェーズ前半まではケニア国内で拡大が非常に順調に進み、ケニア農業省内にもSHEP専任のユニットを新設する話が出るなど、中央政府の後押しも強かった時期です。

しかし、2013年から本格的に施行されたケニアにおける地方分権制度により、第2フェーズ後半から状況が一変しました。

憲法改正により、農業普及の実施主体がカウンティ政府(ケニアの地方自治政府)と定められたため、JICAがプロジェクトを共に実施する中央政府側から普及の現場であるカウンティ政府に直接指示を出すことが難しくなり、カウンティ政府の予算や優先順位に依存せざるを得なくなりました。

その結果、カウンティによってはSHEPを活用した農業普及実施への予算拠出が進まず、プロジェクトによる介入効果の持続性が確保できないという課題が浮き彫りになりました。

なので、私が参画した第3フェーズでは、中央行政官もカウンティ政府に強く働きかける権限がなく、現場で活動する専門家も「プロジェクト活動として実施している農家研修は順調で、対象農家の所得も増えているのに、カウンティがその農家研修を続けていけない」というジレンマを抱える、苦しいフェーズだったといえます。

■ SHEP Biz(第4フェーズ)が挑む新しいチャレンジ!

ーー国の制度が変わることで、ここまで現場の活動が大きな影響を受けることがあるんですね…。さて、今年の12月で終了予定の第4フェーズ「SHEP Biz」ではどのようなことをしているのでしょうか?

▶ はい、前回のフェーズは関わっていて、個人的にかなりもどかしい思いでした。(苦笑)

そういうこともあって、第4フェーズでは従来の「普及員育成にかかる費用をプロジェクトが全額負担する」という形を一部見直しました。

1回目の普及員人材育成研修や、その研修後に普及員が行うプロジェクト対象農家グループへの研修実施についてはプロジェクトが必要経費を負担するものの、2回目以降の普及員向け研修は「コストシェア」を導入し、カウンティ政府が自ら予算を確保する仕組みに変更しました。

これにより、カウンティ側にも「自分たちの取り組み」という意識と上層部への説明責任が生まれ、プロジェクト終了後の持続性を高めることを狙っています。

またカウンティ以外にもSHEPを活用していただくパートナー団体も増やしていきました。

■ 山田さんが語る現地での活動!

ーーなるほど、カウンティだけでなくそれ以外の団体もいかに巻き込んでいくかという点がカギなのですね。山田さんは実際にどのような役割でSHEP Bizに関わっているのでしょうか?

▶ 私は「ケニアでのSHEP連携推進」という立場で、カウンティ行政以外の団体(NGO、民間企業、学校、他ドナー等)を対象に、SHEPの導入促進や研修、導入後のフォローアップを行っています。

学校に対しては、授業や課外活動でSHEPの概念や演習が実施されることで、SHEPを学んだ将来の普及員が、農業業界に進み、長期的に制度全体が強化されることを期待しています。

一方、NGOや民間企業には「SHEPを使えば、既存の活動の効果をより高められる」「販路拡大や成果向上が期待できる」という形で提案を行い、SHEP導入の動機付けを図っています。

実際、様々な団体へ営業をしていく中で、「研修で経費をかけて農家に技術研修をしても、農家が教えた技術を全く使ってくれない」「農家が増産には成功したが、結局作物の販路が見つからず困っている」という団体は少なくありません。

その課題としては、団体自身も「技術が良ければ、農家は使うだろう」「農家であれば売り方を知っているだろう」「良いものを作れば、マーケットが買ってくれるだろう」と思い込んでしまっているところがあるようです。

SHEPは、こうした課題に対し「農家自身による市場志向型の農業経営」を通じて解決策を提示できるため、多くの団体が関心を示してくれています。

また、過去フェーズの対象農家の収入変化を把握できるデータや、多様な成功事例は、SHEPを他団体に提案する上で大きな後ろ盾となっています。

ーーJICAプロジェクトも民間企業やNGO団体へごりごり営業を行っているんですね!実際に営業をして研修を実施してくれる団体さんへはどのような研修を行っているのでしょうか?

▶ 連携活動として研修の実施を合意した団体へは、まず3〜4日間の「トレーナー養成研修」を実施します。

この研修の対象は農家ではなく、農家に知識を伝える立場の人たちです。具体的には、NGOスタッフ、企業の社員、学校の先生など、所属に関係なく参加してもらいます。

研修では、SHEPの基本コンセプト(2つの理論や4つのステップ)を理解してもらい、市場調査、作物選定、作物栽培カレンダーという3つの主要ツールについて講義と演習を行います。その上で、参加者が今後の研修実施計画を立て、プログラムを終えます。

この研修を行う際、我々は毎度パートナー団体に「You bring yourself, we bring ourselves」ということを伝えています。

これは、プロジェクト側だけがすべてのコストを負担するのではなく、関わるステークホルダー全体でコストシェアをしていきたいという考えがあるからです。

ですので、この研修においては参加者に対する費用負担は一切行っていません。教材の用意や講師派遣は行いますが、参加者やパートナー団体のスタッフの旅費や食費、実施後の活動経費はすべて各団体に負担してもらっています。

その条件でも一緒にやりたいパートナー団体は、それだけSHEPの価値を理解していただいていると信じています。

研修終了後は、基本的にパートナー団体の自主性に委ねられているため、具体的にはその後の経過進捗はすべてオンタイムで追えていないというところはあります。そのため、定期的に電話などで進捗を確認し、研修内容が現場で適切に伝わっているかなどのフォローアップも行います。

良い意味でも悪い意味でもSHEPは想定外の効果や成果がパートナー団体によって出てくるため、その情報を通じて連携活動の改善に努めています。

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