JICA農業普及の柱「SHEP」の進化と広がり!~JICA専門家 山田さんが語る8年間~

■ SHEP Biz × パートナー団体の連携のカタチ

ーー初めて「You bring yourself, we bring ourselves」と聞くと、少しぶっきらぼうな印象もありましたが、プロジェクト側がコストもすべて負担していると農家や普及員自身の自立には向かわないと思うので、とても大事な価値観だなと思いました。実際にパートナー団体についてどのように連携しているか教えて下さい!

▶ SHEPのパートナー連携は、上記のような厳しい条件のため、当初から簡単ではなかったです。

そのため、最初の足がかりはJICA関連のネットワークを通じて探しました。

最初のパートナーとなったのは、日系企業が出資していたスタートアップで、彼らはオフグリッドによる農村電化を目指していました。供給する電気の消費者である農家とのコミュニケーションに課題を抱えており、「農家がもっと主体的になれる仕組みが必要だ」という理由からSHEPを導入したいと申し出てくれました。

次に、JICAが支援しているジョモ・ケニヤッタ農工大学や、農業省管轄の農業大学校や短期大学、さらにJICAと覚書を交わしていたWFP(国連世界食糧計画)も加わり、ネットワークは広がっていきました。

その後は「噂を聞きつけての広がり」という流れでパートナーが増えました。

パートナーとの関係では、SHEPのコンセプトにもある自己決定理論に基づき「効果が確認できなければやめていい」というスタンスを貫いています。

実際、最初のパートナーであるスタートアップは事業の方針転換を理由に途中で撤退しましたが、こうした「引く自由」を保証することで、逆に積極的に取り組むパートナー団体はSHEPの「人に教えやすく、応用が利く」という利点を生かして、様々なプロジェクトに転用していただいてます。

「何でそんなに進んでること言ってくれへんの!もっと早く言ってよ!」みたいに思うこともあるほど、勝手に使っていただいてます。(笑)

■ トヨタモビリティ基金と進める革新的な取り組み!

ーー様々な企業や団体ともパートナーシップが進む中で印象的なパートナーはいますか?

▶ はい、あります!

園芸作物と実施している事業に直接的な関わりはないにもかかわらず、SHEPのコンセプトに共感して参画した団体である「トヨタ・モビリティ基金」です。

同基金は、「モビリティでアフリカ農村の課題を解決する」というビジョンを掲げており、その一環としてケニア西部で電動三輪による農産物集荷・買い取り事業を実施しています。その事業は、基金の出資で設立したSonga Mobilityという社会的企業により実施されています。


トヨタ・モビリティ基金が支援する社旗的企業Songa Mobilityの集合写真

連携開始当時、Songa Mobilityが買い取る農産物はバナナや生乳と決まっており、「農家が市場調査から自分の判断で栽培作物を決めるSHEPが付加する価値があるのか??」と戸惑っていました。

しかし、Songa MobilityのマネージャーがSHEPの概念を強く支持し「農家が主体的に動けるようにする考え方こそが農村コミュニティのビジネス振興に重要だ」と共感してくれたことが大きな後押しとなり、2022年から連携が始まりました。

当初は、通常のSHEP実施で、農家が園芸作物(野菜)について市場調査を行い、市場情報に基づいた生産・販売を行うといったものでした。その流れの中で、農家に研修をするスタッフから「生乳集荷事業にもSHEPの手法を応用したい」という動きが生まれ、Songa Mobilityのスタッフが中心となって小規模酪農家の生産性を高めることを目的とした「Dairy SHEP」の開発が始まりました。

小規模酪農家はまさにSonga Mobilityが日々集荷をしている対象者であり、より直接的にSonga Mobilityの事業効率改善に効果があると考えられたのです。

2025年3月から正式に始動し、SHEPの4つのステップを軸に、農家が主体的に経営判断を行い、利益率の計算や先進農家の視察を通じて気づきを得られる仕組みが取り入れられています。

このDairy SHEPは我々が提案したものではなく、現場のパートナーが自発的に考案したことが大きな特徴だと思います。

何も決まっていない中で進んでいくのは、先が見えないので少し不安なところもありますが、SHEPの新たな可能性にとてもわくわくしています。


小規模酪農家グループに対して、ジェンダー主流化研修実施中の写真

■ SHEPが直面する現場の課題

ーー「Dairy SHEP」も始まっており、様々なところでSHEPが使われているのはとても興味深いです。一方で8年間SHEPに携わってきたからこそ感じるSHEPの課題はありますか?

▶ そうですね、公的農業普及員の人員不足でしょうか。

理想は普及員1人あたり農家400人程度の比率ですが、実際には普及員1人に対し、 700〜1,000人の農家、地域によっては5,000人の農家を1人の普及員が対応するという状況もあります。

この中で広大な担当地域をカバーするのは困難で、活動経費も十分でないため、どうしてもアクセスしやすい地域や農家に偏る傾向があります。

この結果、情報が届きにくい農家が取り残される恐れがあり、普及活動の対象が偏るという課題が生じています。また、公的農業普及員が農家に直接指導する「ピュアなSHEP」だけではスピードが遅く、広がりに限界があります。だからこそ、志を同じくする(like-minded)団体と効果的な連携を模索すること、一人でも多くの農家がSHEPの考え方に触れられればと思っています。

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