経済学者が見るアフリカ、そしてケニア~識者インタビュー『ミネルヴァの梟』Vol. 1 「高橋基樹」氏~

最近ではメディアでアフリカを取り上げる機会が増え、ブログやSNSといった個人レベルでの情報発信も盛んだ。しかし、研究分野で指摘されていることが広く共有されているとは言えず、時に根拠のないアフリカのイメージが広まってしまっている例も散見される。現代アフリカ経済学から見たアフリカ、そしてケニアとはどのような姿なのか。

Vol. 1では日本におけるアフリカ経済学研究の第一人者の一人である高橋基樹京都大学大学院教授(神戸大学大学院名誉教授)に現在のアフリカについて尋ねた。

アフリカをどの様に理解していくべきか!?

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京都大学大学院の高橋基樹教授。国際開発学会の会長も歴任されている。

―今回はインタビューを受けていただきありがとうございます。始めのトピックは、メディア、市場関係者、研究者など、それぞれの立場から見るアフリカ像が大きく異なっていることについてです。

同じアフリカを見て違うアフリカ像を認識する場合、アフリカ理解における議論が深まらないのではないかと考えています。私達はどのようにしてアフリカを理解していくべきでしょうか。

それぞれの途上国では前提条件が大きく異なります。経済成長率や外国人が安全に歩けるところだけを見てアフリカが発展していると捉えてしまうことには注意が必要です。

経済成長を通じて所得水準が上がり、同時に貧困削減も進んでいき、援助など外部の要因に依存する割合を減らすことを持続的な発展とするならば、より社会を注意深く観察することが必要になります。自らが関わるビジネスだけに注目すれば、その分野のフォーマル市場だけを見ればいいし、そこに意味が無い訳ではありません。

しかし、対象がアフリカの発展ということであれば、オフィスだけではなく、人々が日常的的に働いている場や路上のモノづくりの現場、スラムや農村まで見て何が言えるかということが重要ではないでしょうか。

難しいのは、アフリカの多くの政府できちんとしたデータを取る能力がまだまだ足りないため、数字だけを見ても実像が分からないということです。そのため、経済学者にも人類学者のようにフィールドワークを行い、現場をその目で観察する必要があります。

―その部分については、特にアフリカだから必要になるということが言えるでしょうか。

そう思います。アフリカはアジアよりも歴史的に統治機構が(植民地化にみられるように)外から植え付けられた面が強い。アジアでは数百年も続く王国を外国が丸ごと上から植民地化した訳ですよね。そこでは政府(統治機構)が徴税を行い、国をコントロールしてきた経験と歴史があるし、人々は税金を払うという感覚を知っている。植民地化しても、元々そこにあった秩序を壊すことはできなかった。

しかし、アフリカの場合では国単位で統治機構や秩序があったわけではなく、ヨーロッパ諸国により無理やり『国』としてまとめられた。そのため政府が国民を補足(把握)する能力が小さいということは(研究領域で)多く指摘されてきたことです。こうした歴史的前提の違いは今でもアフリカを理解する上でポイントになると思います。

―今でも日本の一部メディアでは「中間層が増加し、これから更にアフリカが発展していく」という意見が見られます。研究者としてはその意見に対してどのように思われますか。

国によって異なると思いますが、アフリカ中間層が人口に占める割合は大きくなっていません。ただ、絶対数は大きくなっているため、スーパーマーケットやショッピングモールが成り立つための規模は確保されている面があると思います。

しかし、アフリカ開発銀行の統計で指摘していることは、中間層と貧困層の間にいる浮動層の人口が増加しているということで、アフリカが一度不況に陥ればそうした人々は一気に貧困層に転落する可能性が高い。現在のアフリカで(人口割合として)多くの人々が貧困層から抜け出しているかというと非常に疑問です。

―アフリカの人々が貧困から脱却し、中間層、この文脈では企業にとっての購買者層(消費者層)が増加していると捉えるのはまだ早計なのではないかと感じます。

何を売るかで全く異なると思います。2、30年前と比べればビジネスチャンスが広がっているのは間違いありません。例えば中古車販売が増加していますし、一部の人々は新車を購入している。

絶対数としてこうした購買者数が増えていることは事実ですが、そこに格差が存在していることを忘れてはならない。取り扱っている商品を購買する人々の「層」という話であれば、注意深く考察する必要があります。

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